042:至（我妻俊樹）

びしょ濡れのソフトクリーム突きつけてなんて至近距離の別れかよ

041:さっぱり（我妻俊樹）

天井に花をぶつけながら寝入る一日（ついたち）になるきれいさっぱり

040:伝（我妻俊樹）

全部伝わるようにゆっくり回すのは車輪のようでそうじゃないもの

039:庭（我妻俊樹）

夏休みのはじまりの終り　庭石に乾いていくあしあとの人だよ

038:抱（我妻俊樹）

夏休みのはじまりの朝　抱いているものがくずれて光になれば

037:ポーズ（我妻俊樹）

ねえさんのポーズを変えて窓に置く誰にもさわれない夏休み

036:暑（我妻俊樹）

金魚からわたしが咬んだあとで血が水にとけてる暑中お見舞い

035:罪（我妻俊樹）

筆ペンで額に書けば本当になった気がするゆうべ無罪に

034:掃（我妻俊樹）

日なたから影をこすって消してゆく夏の掃除夫たちは黙って

033:奇跡（我妻俊樹）

あの窓に奇跡のような夕焼けはひろった小菊が皿に似合うね

032:町（我妻俊樹）

あて先を似顔で書いて届く町ここにあるよと雲は矢印

031:電（我妻俊樹）

急所をはずせ、と電話してくれたらあたし、はずすしかさぶたの胸になる

030:遅（我妻俊樹）

すこしずつ遅れはじめたきみの手にわたったまま時告げるラジオ

029:公式（我妻俊樹）

きみをまだおぼえていない夏がくる公式戦のスタンドの虹

028:説（我妻俊樹）

説明は耳をふさげばハミングにきこえてる自分をゆびさして

027:水（我妻俊樹）

バスタブの色おしえあう電話口できみは水からシャツをひろった

026:震（我妻俊樹）

雨の日のあなたは薄い　さがしてる震えていてもできる仕事を

025:ミステリー（我妻俊樹）

読みかけのトラベルミステリーにあふれてた夏の光をすれちがうバス

024:謝（我妻俊樹）

かしこくて感謝しらずで二の腕がつめたくてそう、母親なんだ

023:蜂（我妻俊樹）

あなたたちを味方にすると決めたからもう蜂を待つ表情じゃない

022:でたらめ（我妻俊樹）

でたらめなルールで騒いだチェスのあと主人公が死ぬＡＶを見る

021:洗（我妻俊樹）

血が耳に入ると聞こえるうつくしい音楽が町を洗っていく

020:幻（我妻俊樹）

幻灯をはずして壁にあてながらただ真っ白になるだけなのよ

019:層（我妻俊樹）

あの青い高層ビルの天井の数をかぞえてきたらさわって

018:準備（我妻俊樹）

準備中の札さげてぼくらはここにいる待っている鍵穴を晒して